ここで言うところの木彫芸術は、關渡宮の建築物に施された木彫を指し、神像といった彫刻作品は含まれません。そのため、個々の作品に触れる前に、まずは伝統木造建築の特徴について紹介します。伝統建築は主に木材で骨組みを作る「木作」(木造)で、さらに「大木作」と「小木作」に分けられます。

  「大木作」は建築の骨組みとなる構造体を指し、構造力学の設計や一部構造物の施工が含まれ、建築士や建築施工管理技士の分野に属します。同時に、「大木職人」には木彫の基本技能が求められ、「斗」「栱」「通」「梁」「桁」「縁」「束」等の構造物を自ら制作します。異なる構造分布や、「大木作」と「小木作」の間をつなぐ彫刻を施す中で、建築構造力学に則って守るべき原則が各々あり、精巧な彫刻によってバランスを崩し、建築物の加重の伝達が破壊されることを防ぐ必要があります。「大木作」は「斗」「栱」「通」「梁」「桁」「縁」「束」等の構造物で構成されますが、直接建物の加重を受けることから彩色による装飾が一般的で、できるだけ彫刻等によって耐重力が失われないようにします。そのため、美しい装飾を施すにも、簡単な浅浮彫や陰刻を施すことになります。

  「大木作」に対して「小木作」は種類も幅広く、門戸、窓枠、建築装飾物、各種木製の家具等が含まれます。ここで扱う木彫作品は建築装飾にあたり、伝統的には「小木鑿花」と呼ばれ、木彫作家は「鑿花師傅」(師傅は職人を指す言葉)と呼ばれています。

  「小木作」の木彫には、梁の末端にある「束尾」、「檐柱」(軒下を支える柱)の間の短い梁下にある「員光」、「瓜柱」(梁に乗せて軒下を支える短い柱)と梁をつなぐ「獅座」、梁下の短柱に掛かる形で「楹木」と「歩通梁」を固定している「花籃」もしくは「吊筒」、短柱の上部に装飾として施される「豎材」、梁と柱が直角に交わる部分にある「雀替」(托木)等があります。これらは「大木作」の構造体もしくは骨組みにおける補助的な装飾構造物で、構造力学上はあまり加重を受けないため、骨組みを固定しつつ、巧みな彫刻技巧で伝統建築に彩りを添えています。また、木彫職人の腕が最も発揮される部分でもあり、とくに「員光」「雀替」「束尾」「豎材」「獅座」「花籃」「吊筒」に集中しています。